Petit Pays : Cesaria Evora






 曲名を見ずにポルトガル語のこの曲を初めて聞いたとき、印象に残る終わりのフレーズ「ペティ・パイ・ジェタン・ボク/ペティ・ペティ・ジェラン・ボク」がフランス語に似ているなと思いながらそこだけすぐ覚えてしまいました。そして、内容を確認しないまま刷り込まれたこのフレーズをしばらく口ずさんでいたのですが、ある日、これはなまっているだけでフランス語じゃないかと思い至り、曲名と歌詞を確認してみるとそうでした。
 セザリアの歌に他にフランス語を使ったものはなく、これだけのようですが、大西洋に浮かぶカーボ・ヴェルデ(Cabo Verde)という小さな島国ではポルトガル語だけでなく、フランス人ツーリストに対してはこんな発音でフランス語を使っているのだろうかと想像しました。
 しかし、よく考えてみると、文字を読むこともほとんどない素朴な人たちであれば、フランス語も耳で聞き覚えるでしょう。するともうすこしフランス語に似た発音になるのではないでしょうか。これは「文字を読んだ発音」が入っています。セザリアの歌う曲をたくさん書き、自分でも歌手として活動しているテオフィロ・シャントル(Teofilo Chantre)のフランス語はYouTubeなどで聞くととてもじょうずです。
 この曲も彼が書いたのではないかと思いますが、それなら発音はフランス語としてもっと正確なものにできたはずです。それをそうしなかった。歪んだフランス語の発音をあえて使った、あるいは発音をあえて歪めた可能性さえ感じられます。これはヨーロッパのワールド音楽市場、観光市場向けの作為、工夫じゃないかと思えてきました。
 歌詞をそのまま読めば、「(わたしの生まれ育った)小さな国、わたしはあなた(この国)が大好き」という「純朴な愛国心」なのですが、わたしが聞いてすぐ刷り込まれたように、耳にしたフランス人がこのフレーズを聞いてすぐ刷り込まれると、「(下手でもフランス語を使おうとする)小さな国カーボ・ヴェルデ、わたしはあなた(その国)が大好き」と繰り返すことになります。
 そんなことを思いながら、この短い歌詞を翻訳してみると、長さも「テレビコマーシャルサイズ」としか見えません。ツーリストを呼び込む「キャッチコピー」、それが終わりのフレーズではないのでしょうか。歌詞の内容は、まず「風景」、そして「めずらしい産物」ぐらいで、あとはすぐ覚えられるフレーズが最後に繰り返すのですから、一枚のポスターに書き込める内容量です。
 すると、「純朴」なのではなく、「『純朴』を繊細、かつ巧みに操れる」ということです。やりますね。こういうインテリジェンスを欺瞞とは思いません。人間の高度な自然性です。こう考えて初めてほんとうに「小さな国、あなたが大好き」と言いたい気分になりました。

Petit Pays
(小さな国)

La na céu bo é um estrela
あの空で言えば、あなたは星
Ki ca ta brilha
目立たない
Li na mar bo é um areia
この海で言えばあなたは砂
Ki cata moja
湿ることがない
Espaiod nesse monde fora
人がまばらにいる
So rotcha e mar
岩と海だけ

Terra pobre chei di amor
貧しいけれど愛に溢れた土地
Tem morna tem coladera
モルナとコラデーラがあるから
Terra sabe chei di amor
やさしく愛に溢れた土地
Tem batuco tem funana
バトゥーコとフナナがあるから

Oi tonte sodade
ほんとうに懐かしい
Sodade sodade
懐かしい、懐かしいわ
Oi tonte sodade
ほんとうに懐かしい
Sodade sem fim
限りなく懐かしい

Petit pays je t'aime beaucoup
小さな国、あなたが大好き
Petit petit je l'aime beaucoup
小さい小さい、あそこが大好き

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